今回は「春山の天気を学ぶ」第二弾になります。
前回は、春山の気象(3月〜5月)の特徴について学びましたが、この回ではもう少し深く春の天気について学びます。
まずこの時期に発生しやすい三つのタイプの気圧配置を覚えておく必要があります。
① 温帯低気圧
② 移動性高気圧
③ 帯状高気圧
この中でも天候を大きく左右し、気象遭難を発生させる誘因となるのが温帯低気圧です。
この温帯低気圧からはじめに学んでいきます。
【温帯低気圧の種類】
温帯低気圧はその通過するコースによって3種類に区分されます。
日本海側を通過する日本海低気圧 本州南岸沿い(太平洋側)を通過する南岸低気圧 そしてその両方が同時に日本列島を通過する二つ玉低気圧です。
春山におけるほとんどの気象遭難はこの温帯低気圧が発達して日本列島を通過、又はその通過後に起こっています。
日本海低気圧
日本海を通過する事で日本列島の大部分が低気圧の南側に入り、強い南向きの風をもたらす恐ろしい存在の気圧配置が日本海低気圧です。
日本海低気圧が接近すると、北日本など温暖前線の影響を受ける地域で一足早く雨や雪が降り出します。
温暖前線の南側に入る地域では、前線から離れるほど平地では晴れ間が広がりますが、山間部では南側の湿った空気が山にぶつかることで上昇気流が発生し天気が崩れます。
特に南西側に海のある山では激しく雨の降ることがあります。
また、日本海側の山では南風が脊梁山脈(北アルプスなど)を越えて下降気流をもたらしフェーン現象を引き起こします。
(※湿った空気が山を越えて吹き下ろすことで風下側の気温が上昇する現象)
それにより多雪地帯の山々では雪崩や融雪による沢の増水、雪庇の崩落などが起きやすくなります。
その一方で低気圧が近づくまでは大きな天候の崩れは少ないですが、低気圧や寒冷前線の通過時には一転、暴風雪や暴風雪に見舞われる事があるので注意が必要です。
特に注意しなければならないのが、雨に濡れながら尾根を登り稜線に出たタイミングで寒冷前線が通過するときです。濡れたら身体に猛烈な風雨が吹き付けることで体温が奪われ低体温症の危険が高くなります。
そのようなことにならないよう事前の天気の確認は必須となります。
南岸低気圧
本州の南海上または南岸を東進し、日本列島の東海上に抜ける温帯低気圧。
日本海低気圧とは反対に南岸低気圧では日本列島の全域が低気圧の北側(寒気側)に入ります。温帯低気圧は北側に広い降水域を持つため、低気圧に近い太平洋側の山間部ほど降水量が多くなり風も強まります。そして、低気圧が東海上で発生すると今度は日本海側の山で暴風雪となります。
二つ玉低気圧
日本海低気圧と南岸低気圧が同時に日本列島を通過する気圧配置。
この低気圧が発達しながら日本列島を通過すると、暴風雨と気温の上昇をもたらし通過後には一時的な冬型気圧配置となり、気温が急激に下降して山は暴風雪なります。
二つ玉低気圧型の気圧配置は、二つの低気圧の影響を受けるため全国的に大きく天気が崩れます。
また、日本海を進む低気圧が発達して南岸を進む低気圧より勢力が強い場合には、日本海低気圧と同じような気象状況となり、その反対の場合には南岸低気圧と同じような気象状況となります。
低気圧がさほど発達しない場合には一時的に天気が良くなる場合もありますが、その後、低気圧が日本列島を通過し東海上で発達する場合には、天候の急変や気温低下に注意をしなければなりません。
その他の春山の代表的な気圧配置は、移動性高気圧と帯状高気圧です。
いずれも高気圧ということもあり晴天をもたらす気圧配置となります。
【移動性高気圧】
比較的早い速度で移動する高気圧のことで、風も比較的弱く好天に恵まれやすくなります。
ただ、移動性高気圧が通過するときでも気象遭難は発生します。
移動性高気圧が近づいているという事で安心して登山をスタートしたものの、予想していなかった暴風により滑落したり、まだ気温の低い時期であるため低体温症となって行動不能になってしまうこともあります。また、移動性高気圧通過後に大きく天気が崩れることも少なくなく、暴風雨(雪)に見舞われてしまうこともあります。
【帯状高気圧】
複数の高気圧が東西方向に長く連なった気圧配置。
ゴールデンウィークの頃や10月中旬から下旬、11月上旬から中旬に出現することが多いようです。
通常、移動性高気圧通過後は低気圧が接近し天気が崩れますが、帯状高気圧の場合には、移動性高気圧の西側に別の高気圧が控えているため、薄い雲が広がる事はあっても大きな天気の崩れはなく、次の高気圧に覆われて再び好天に恵まれます。
その結果、好天が長期間続くためこの時期の登山に最適な気圧配置となっています。
春の天気は荒れやすく気象遭難も多くなります。
とにかく日頃から天気図を確認し、現在の天気の状況・今後の推移を自分なりに予想しておく事が大切なのではないかと思います。
天気予報はもちろん天気図を日々確認する習慣をつけることが気象遭難に遭わない第一歩となります。
安全第一で楽しく山を登りましょう!!