富士山に生育する植物を「富士山を登る植物」と題し学んでいきます。
今回は第一弾(一合目)です。
日本列島は、北は北海道から南は沖縄まで南北に長く、緯度でいうと北緯20度から46度に位置します。その距離およそ3500km。
一般的に植物は緯度による平均気温の違いにより生育する植物の分布が異なります。つまり平均気温の違いにより異なった植物が生息するということです。これを水平分布と呼びます。
そして気温は高度においても変化します。標高が高くなればなるほど気温は下がっていきます。数値でいうと100m標高が上がるごとに気温は0.6度下がります。
富士山に当てはめてみれば、海抜0mの海岸と3776mの富士山頂では約23度の気温差になります。この気温差の違いにより富士山では標高が上がるごとに生育する植物の分布が変化します。これを垂直分布と呼びます。
日本列島の植生を水平方向にながめると、温度条件により東北日本はブナに代表される落葉広葉樹林帯(夏緑樹林帯)、西南日本はカシに代表される常緑広葉樹(照葉樹)林帯に大別されますが、富士山はちょうどこの境界付近に位置しています。
富士山の麓から山頂までの温度変化(100m高度が増すたび0.6度気温が低下)は、水平における気温変化に比べて約1000分の1の規模に凝縮されます。
また植物の生育には気温だけでなく、気圧・紫外線・日射・風・雨・積雪などの気象条件や土壌の状態も関与してきます。富士山においても北麓と南麓では標高が同じであったとしても植生が異なります。
それでは富士山の植物分布は標高の違いによりどのように変化しているのでしょうか?
概ね標高1000m以下の麓では人の影響が強く、多くが富士山本来の植生の姿ではありません。ただそのような状態でもわずかな手がかりからの推測により、常緑広葉樹林と落葉広葉樹林の境界はおよそ標高800mくらいといわれています。富士山域で800m付近というと北麓は河口湖周辺、西麓は朝霧高原周辺、南麓は富士サファリパーク周辺、東麓は須走浅間神社周辺といった地域です。
落葉広葉樹林の上限は約1600m、それより上はシラビソやトウヒなどからなる亜高山性針葉樹林、その上端ではカラマツが多くなり2400m付近にまで達します。そして高山帯に至ります。
植物の中には、これら垂直分布とは関係なく山麓付近から亜高山帯上部にまで分布する植物も見られます。「人里植物」とよばれるオオバコなどがその代表で、オオバコは登山道で人に踏みつけられる事で(靴の裏にくっつき人と共に登山をして)その分布域を広げています。
「オオバコ」
分布帯:丘陵帯~亜高山帯 生活環境:道端・空き地など
生活型:多年草 草丈:10~50cm 開花時期:初夏
広くて大きな葉を持つことから「大葉子」。または人や車が通る道沿いに生える草の意味で「車前草(しゃぜんぞう)」とも呼ばれます。昔から種子を「車前子」と呼び咳止めの薬とされていました。
次回(2合目)へ続く。
教材資料