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信仰の山:御嶽山

2014年9月14日午前11時52分、木曽の御嶽山が噴火しました。南西斜面で発生した水蒸気爆発は、多くの登山者が巻き込まれ死者・行方不明者63名におよぶ戦後最大の犠牲者を生む火山災害となりました。

この日、わたしはたまたま長野から岐阜、富山へ旅行中でありその近くで起きたこの噴火のニュースに旅先で釘付けになったのをよく覚えています。
あれから6年が経過した2020年8月、通行規制中であった王滝頂上の通行が解除になったと聞き、王滝口登山道より登頂する事としました。

御嶽山王滝口


スタート地点は標高2188mの田ノ原。
御嶽山は日本有数の信仰の山で古くから修験の山として知られてきました。現在でもその信仰は続き、麓は多くの宿を中心とした集落が栄え、登山道へ続く道もスキー場が整備されていることもあり舗装された二車線の道路が登山口まで続いています。
その車道沿いには至るところに祠や仏像がみられます。

富士山では江戸時代に富士講による信仰登拝が盛んになりましたが、御嶽山でも同様に御嶽講と呼ばれる信徒が白衣と山袴に身をまとい頭に宝冠を巻き先達を筆頭に山頂を目指します。

富士山を学ぶ:富士講現在、富士山には日本のみならず世界中から20万人を超える登山者が毎年訪れます。かつては修験道の山として限られた人しか登る事のなかった富士山、それが庶民にも広がり多くの人々が富士山の登頂を目指す一代ブームが巻き起こったのが江戸時代です。富士山を信仰し祈願のため富士山頂を目指すグループ「富士講」がきっかけとなっています。...

御嶽山は長野県と岐阜県の県境にそびえる独立峰で中央火口丘の剣ヶ峰の標高は3076m。剣ヶ峰を取り囲むように、北から継子岳・摩利支天山・継母岳・そして王滝頂上が外輪山をなしています。

御嶽山は水が豊かで山頂近くには火口湖もあり、御嶽山を源流とする河川や滝が多いのも特徴です。そしていくつかの滝は行者の修行場となり、現在でも利用されています。
また、水が豊かということもあり森林を中心とした雄大な自然が広がっています。

噴火する恐ろしい山のイメージがついてしまった御嶽山ですが、かつては信仰の山として多くの登拝者が全国各地から訪れ、それとともに麓の集落も繁栄してきました。
主な登拝口は江戸時代に木曽側の黒沢口と王滝口飛騨側に小坂口(飛騨口)が開かれ、その後木曽側に開田口が開かれています。
現在、黒沢口にはロープウェイが設置されており標高2150mまで上がる事ができます。



この御嶽山の信仰が一般庶民にまで広がるようになったのは富士講と同じく江戸時代。尾張出身の行者、覚明による黒沢口からの開山によります。覚明は当初黒沢村での登拝協力が得られませんでしたが、強行し登頂を果たします。その後は黒沢村での布教活動により信者を増やしていきます。
覚明の信者は東海地方から関西地方へ広がり、覚明没後50年に御嶽講が結成され、その後も様々な講が各地で発展していきます。

そして、覚明に続き江戸の修験者である普寛が王滝口より登頂を果たし、これにより御嶽信仰はさらに発展していきます。
普寛は当初より江戸での御嶽山の信仰を広める意思を持っていました。当時の江戸では富士講が隆盛をきわめていましたが、新たな講をつくるべく精力的に布教活動を展開し江戸にも御嶽信仰が広がっていきます。
御嶽信仰布教の原動力といわれているのが「御座」という御嶽山に祀られる神霊や各御嶽講の講祖らと直接対話できる儀礼で、多くの民衆の心をひきつけました。

御嶽講は、現在でも活力を維持し信者らが登拝・儀礼・修行などを行なっています。ただ、近年は高齢化が進み後継者不足という問題を抱え、さらに噴火の影響による山頂登拝の制限もあるということで厳しい状況に置かれています。

そして今回の山行ですが、わたしが登った日は平日という事もあり一般登山者も少なく、その中に1名白装束の登拝者の方がおりましたが、麓の王滝村も噴火の影響がいまだ残るのか閑散としていました。こちらの王滝口登山道からは剣ヶ峰へ行くことができないことも影響していると思われます。

田ノ原登山口から王滝山頂へのコースタイムは往復で4時間程度。

ハイマツが広がる遊歩道からスタートし、途中600mほどのところに遥拝所があり山頂まで行く事ができない登拝者はここから御嶽山をお参りし下山します。

御嶽山遥拝所

そして、少し歩き大江大権現と呼ばれる鳥居があるところより本格的な登山道となります。ここからはひたすら登り、樹林帯の中を進んでいきます。しばらくして森林限界となり背の低いハイマツ、岩場・砂礫帯となります。仏像や祠などが各所に見られ、八合目、九合目には避難小屋も設置されています。

大江権現

そして、王滝頂上へ。

御嶽神社
王滝頂上山荘は、先の噴火被害により現在取り壊し作業中ですが、御嶽神社は変わらず鎮座しています。神社の左手、奥の院は行く事ができません。その向こうの噴火口からはいまだ噴煙が上がっています。

その先、王滝頂上から剣ヶ峰へ通ずる登山道は閉鎖中です。(黒沢口登山道経由の通行は可能。2020.8.1.-10.13)

御嶽山剣が峰

神社にてお参りし下山しました。
この日は雲がかかる時間もありましたが登山口より御嶽山も拝め、中央アルプスの山々も望むことができました。

登山道自体は特に危険な場所はありません。また、頂上までのコースタイムも2時間程度で、もっと時間をかければ余裕を持って登ることができ、比較的手ごろな登山コースともいえるでしょう。
ただ、せっかくなら剣ヶ峰へ。
そして、いつかお鉢巡りができるようになることを願うばかりです。

最後に、御嶽山の噴火で犠牲になった方々のご冥福をお祈り申し上げます。



ABOUT ME
富士山ガイド竹沢
静岡県裾野市在住。 富士山に暮らす富士山ガイド 富士山エコネット認定 エコツアーガイド 日本山岳ガイド協会認定 登山ガイドステージⅡ