これまで富士山頂を目指す登拝道、登山道について学んできました。
富士山にはこれらの道とは別に信仰の道として、中腹を回る「お中道巡り」と頂上火口の周りを回る「お鉢巡り」があります。
今回は頂上火口の周りを周回する「お鉢巡り」について学んでいきます。直径約800メートル、周囲は約3キロメートル、火口の深さ約200メートルの富士山頂上の火口を一周する道を巡る事を「お鉢巡り」と呼び、かつての信仰の道でもあります。
吉田口・須走口登拝道からは、頂上である久須志岳、久須志神社を起点に時計回りにぐるりと進む道程で、久須志神社を出発し、大日岳(朝日岳)→阿弥陀岳・観音岳(伊豆ヶ岳)→勢至ヶ岳(成就ヶ岳)→勢至ヶ窪→銀明水→浅間大社奥宮→浅間岳(駒ヶ岳)→このしろ池→文殊ヶ岳(三島岳)→馬の背→剣ヶ峰→西賽の河原(西安河原)→雷岩→釈迦ノ割石→釈迦ヶ岳(白山岳)→金明水→薬師ヶ岳(久須志岳)、そして久須志神社へ戻ってきます。
太字の地名はかつての名称で明治時代の廃仏毀釈後、カッコ内の現代の名称に変更されています。
富士信仰においては、富士山の八つの峰々を蓮華に例え、浅間大菩薩の本地仏が大日如来であることから、これを内院(火口)にあて、周囲の八峰に八体の仏や菩薩の名をつけました。そしてこれらの峰々を巡ることで「お八巡り」と呼ばれ、現代では火口をお鉢とみなし「お鉢巡り」と表記するようになりました。
現在、久須志神社周辺では山小屋や休憩所が軒を連ね、そこを過ぎると朝日岳へ、そして伊豆ヶ岳へと至ります。ここを下ると「荒巻」と呼ばれる、戦前まで蒸気が吹き出していた黄白色の溶岩が見られ、その先の成就ヶ岳を過ぎ東安河原に出ると御殿場口の終点でもある銀明水へ着きます。銀明水を進むと富士宮口登山道の終点、浅間神社奥宮へ到着。ここでも山小屋や休憩所があり、日本一高い郵便局でもある富士山頂郵便局があります。その先の三島岳では1930年、末代上人の埋蔵物と考えられる「三島ヶ嶽経塚」が偶然発見された場所で、その下のこのしろ池では水が溜まっていることもあります。その先、馬の背を登ると最高峰の剣ヶ峰へ、剣ヶ峰を下ると、道は内院コースと外院コースに別れ、外院コースでは大沢崩れの源頭部や雷岩、釈迦ノ割石と呼ばれる溶岩、そして剣ヶ峰に次ぐ高さの三角点がある白山岳へ進み久須志岳へ至りますが、現在は、雷岩から先は通行が危険な状態であるため迂回ルートを通行します。ちなみに白山岳へは久須志岳側からは行くことができます。
内院コースでは金明水を経て久須志岳へ至ります。
金明水・銀明水は山頂のわずかな落差により溶岩から染み出る湧水で、金明水は山頂の北東部、銀明水は南東部にあります。江戸時代から出水が確認され、御霊水として信仰の対象ともなり、祠が祀られています。
お鉢巡りを周回するのにかかる時間はおよそ1時間半。何時間もかけて山頂に至り、その上、決して平坦ではない起伏のあるお鉢巡りを行うのは体力的にきついものがあります。
多くの人は日本最高峰でもある剣ヶ峰まで至るのが精一杯というところですが、時間や体力に余裕がある時は、かつての信仰の道でもあったこのお鉢巡りにも挑戦してみて下さい。