前回まで山の天気が変わりやすい3要素として「上昇気流」「大気の不安定度」「水蒸気の量」について学んてきました。
山の天気は変わりやすい??:水蒸気と不安定な大気天気について学んでいきます。
前回、山の天気が変わりやすい要素の一つ「上昇気流」について学びました。
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今回はさらに、高度と気温、風との関係について学んでいきます。
私達が暮らす対流圏と呼ばれる層においては標高が上がることに気温が下がります。その割合は1km高度が上がる毎におよそ6℃気温下がると言われています。
つまり、普段生活している地表付近が30℃を超える真夏日であっても、富士山の頂上では10℃以下にまで気温が下がっていることになります。そしてこの温度逓減率は冬になると大きくなる傾向があります。
また高い山ほど直接地面に達する日射量が多くなるため、晴れていると実際の気温以上に暑く感じますが、ひとたび天候が崩れると風が強くなり気温以上に寒く感じるようになります。それゆえ、山では衣服の温度調節がとても重要になります。
続いて山における風の特性
水の流れは高いところから低いところへ流れます。また傾斜が強ければ強いほど勢いよく流れます。風(空気)も同じです。風の場合、気圧が高い空気の塊から小さい空気の塊へ流れ、その気圧の差が大きいほど強く吹きます。
天気予報でよく見かける天気図には等圧線とよばれる同じ気圧の地点を結んだ線が描かれています。この線と線の間が、狭ければ気圧の差が大きく風が強い場所となり、広い場合は風が弱い場所になります。
ただ、この天気予報で見かける天気図は地上天気図と呼ばれ地上付近に近い大気の状態を表したもので標高2000m以下の山であれば参考になりますが、それ以上の山では高層天気図やウィンドプロファイラなど合わせて利用した方が良いようです。
そして、日本など中緯度地域では高度ともに風が強まる性質があり、高い山や富士山のような独立峰ほど風が強く吹きやすくなります。
天候を左右する偏西風
中緯度地域である日本には「偏西風」とよばれる西風が一年を通して吹いています。偏西風は地表付近では目立ちませんが上空に行くほど顕著になります。天気が西から変わりやすくなるのはこの偏西風の影響によるものです。
地球を北極の真上から眺めると、偏西風は北極を囲むようにして、反時計回りに一周して吹いています。
低緯度(太陽により近い地点)の赤道付近で暖められた空気は上昇し、上空で南半球、北半球へ移動します。
北半球では北緯30度付近(日本では南西諸島付近)まで到達した空気は下降気流になって地上に降りていきます。
地上付近では気圧の高い地域ができており、そこから南北へ風が吹き出します。
北へ流れた風は北極の方面には流れずコリオカの力(地球の自転の影響)により空気の流れが進行方向に対して右向きに曲げられることで東に向かって風が吹くようになります。
これが偏西風です。
またその際、赤道付近に戻る風を貿易風と呼びます。
そして、偏西風の上部である対流圏付近ではとくに強い偏西風が吹いておりこれをジェット気流と呼びます。
ジェット気流は一年中同じようところを通るのではなく、季節によって移動します。
また、南北の温度の差が大きい場所でジェット気流は発生しやすくなります。
※中緯度地域は地球上で最も南北の温度差が大きい地域です。それゆえ日本の上空付近ではジェット気流が発生します。
夏になると北半球では太陽の高度が高くなり、中緯度地域でも気温が上がり低緯度地域との温度差が少なくなります。
一方、高緯度では南北の温度差が高くなるためジェット気流が北上します。
冬になると温度差が大きい地域が南に移ることで、ジェット気流は中緯度の低緯度側へと南下します。また、ジェット気流が一つではなく二つ現れることも多く高緯度側に現れるジェット気流を寒冷前線ジェット気流と呼びます。
この気流は北極から強い寒気が南下することで出現する気流で、冬には日本付近まで南下します。このため富士山や中部山岳など標高が高い地点ほど、この寒冷前線ジェット気流の影響で風が強くなります。
このようにジェット気流を含めた偏西風は南北に蛇行しながら東へ向かって吹きます。このような蛇行の影響により、地上では低気圧や高気圧が生まれやすくなったり、発達がうながされます。それゆえ、偏西風の下に位置する日本では偏西風の蛇行のぐあいによって天候が左右されるのです。
谷風と山風
まず大前提として。
「地面は暖まりやすく冷めやすい」
「大気は暖まりにくく冷めにくい」と言う性質があります。
そのため日中晴れている時は、大気よりも先に地面が暖まります。そして地面付近で暖められた空気は山の斜面に沿って上昇気流となる、これが谷風です。
一方、夜になると日がしずみ地面から熱が逃げていきますが、冷えにくい大気よりも地面付近の気温が下がるため、山から低い地上(谷)へ風が吹き下ろすことで山風が吹きます。
ただ、これは高気圧に覆われ大気が比較的安定している時の事で、上空の風が強いときや低気圧や前線が近づいている時はこの谷・山の循環は崩れます。
山岳地帯では理論通りにはいかないということも理解しておく必要があります。
山頂の風
一般的に平地では日中に風が強くなることが多いですが、山頂では夜から朝にかけて風が強まりやすくなります。
山頂は地面が最も高い場所であり、周囲を大気に囲まれています。地面である山頂は夜から朝にかけて冷え込むことで、周囲の大気との温度差が広がり風が吹き出します。
ここでも富士山などの独立峰の山はそれが顕著になります。
そして、昼間は山頂に向かって谷風が吹き上げますが山頂に到達する頃に地形の影響により風が弱まっていきます。ただこれらも地形の特性や天候によって変わってくるため参考程度に考えていた方が無難です。