松本清張の小説『波の塔』は、青木ヶ原樹海に「自殺の名所」というイメージを強く結びつけるきっかけとなった作品として知られています。この小説の影響は文学の枠を超え、社会的な現象や地域のイメージ形成にまで及びました。
『波の塔』の概要と青木ヶ原樹海の描写
松本清張の小説『波の塔』は、青木ヶ原樹海を「自殺の名所」として広めた作品として知られています。この小説は1959年から1960年にかけて週刊誌『女性自身』に連載され、後に単行本として出版されました。物語は人妻と若い検事の悲しい恋を描いたロマンチック・サスペンスで、推理小説というより恋愛小説の要素が強い作品です。
この物語における樹海は「人が入ったことのない原始の密林で、この中に迷い込むと遺体も見つけられない」と描かれ、最終的にその顛末が神秘的で恐ろしい場所として読者に強く印象付けられました。
社会的影響と「自殺の名所」のイメージ形成
『波の塔』の発表後、青木ヶ原樹海は「自殺の名所」として広く知られるようになりました。この小説を携えて樹海で自殺する人々が現れたことが報道され、特に若い女性がこの作品を「枕」にして命を絶つ事件が続いたとされています。また、1973年にNHKの銀河テレビ小説としてドラマ化されたことで、このイメージはさらに強まりました。
こうした影響により、青木ヶ原樹海は国内外で「自殺の名所」として認識され、観光地としての本来の魅力が見過ごされる結果となりました。
そう意味ではその負のイメージをマスメディアが増長させたといってもいいでしょう。
地元や行政の対応
青木ヶ原樹海が負のイメージとして知られることは、地元や行政にとって大きな課題となりました。山梨県や地元の自治体は、このイメージをなくし、樹海の自然や観光地としての魅力を広めるための取り組みを進めています。例えば、ドローンを使った夜間の見回りや、観光ガイド付きの散策ツアーなどが行われています。
また、首長は『波の塔』について「樹海に悪いイメージを与えた作品」としながらも、樹海の「本当の姿」を広めることで自殺防止に役立てたいと述べています。
まとめ
松本清張の『波の塔』は、青木ヶ原樹海に負のイメージを広めるきっかけとなった作品と言われています。その影響は文学の枠を超え、社会現象や地域のイメージ形成にまで及びました。ただし、注意すべき点は、この負のイメージを助長させたのはマスメディアや、樹海の本質を知らず興味本位でネガティブな情報を広めた人々であり、『波の塔』という作品そのものではないということです。
本来の青木ヶ原樹海は、豊かな自然や観光地としての魅力を持ち、学びの場としての価値も備えたかけがえのない森です。現在、地元や行政はその本来の姿を伝えるための努力を続けています。