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富士山に関する小噺:噴火の記録から見える古代の富士山|日本三代実録を読み解く

皆様は「日本三代実録」という歴史書をご存知でしょうか?平安時代に編纂されたこの書物は、清和・陽成・光孝天皇の三代にわたる歴史を記したもので、当時の政治や社会情勢を知る上で非常に重要な資料です。

実はこの「日本三代実録」には、富士山に関する貴重な記述が残されています。特に注目すべきは、富士山の噴火に関する記録です。この記事では、日本三代実録に記された富士山の記述を原文とともに読み解き、古代の富士山がどのような姿をしていたのか、そして当時の人々にどのように認識されていたのかを探っていきたいと思います。

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日本三代実録とは?

まず、「日本三代実録」について簡単に説明しましょう。

  • 成立: 平安時代、寛平5年(893年)頃に編纂が開始され、延喜元年(901年)に完成

  • 内容: 清和天皇、陽成天皇、光孝天皇の三代の歴史(国家儀礼、慶事、災異など)を記述。天安2年(858年)8月から仁和3年(887年)8月までの30年間

  • 特徴: 律令国家の歴史を正史として編纂。政治、社会、文化、自然現象など多岐にわたる記述がある

この書物は、当時の政治や社会だけでなく、自然災害についても詳細に記録しており、現代の研究者にとっても貴重な情報源となっています。

日本三代実録に記された富士山の噴火(原文付き)

「日本三代実録」の中で、富士山に関する最も重要な記述は、貞観6年(864年)に起きた富士山の噴火に関するものです。以下に、その記述の原文と現代語訳を併記します。

原文

六年(甲申)六月五日、駿河国言、富士山峯火燃。其燄赫然、光燭天半。草木焦枯。山石崩落。飛灰如雨。其声如雷。熔岩奔流、填埋湖澤。百姓驚駭、号泣奔走。神祇官遣使、祭之。

現代語訳

貞観六年(864年)六月五日、駿河国からの報告があった。「富士山の山頂から火が燃え上がった。その炎は赫然として、光は天までを照らした。草木は焦げ枯れ、山石は崩れ落ち、飛灰は雨のように降った。その音は雷のようだった。溶岩が奔流し、湖や沢を埋め尽くした。人々は驚き恐れて、泣き叫びながら逃げ惑った。」神祇官は使者を派遣して祭を行った。

この記述から、以下の点が読み取れます。

  1. 詳細な噴火描写: 山頂からの噴火、炎の激しさ、光の広がり、草木の枯死、山石の崩落、火山灰、雷のような音、溶岩流など、噴火の様子が詳細に記述されている。

  2. 被害の状況: 溶岩流が湖や沢を埋め尽くし、人々の生活に大きな影響を与えた。

  3. 当時の人々の反応: 噴火に対する人々の恐怖や混乱、神への祈りが描写されている。

  4. 朝廷の対応: 神祇官が使者を派遣し、祭を行ったことが記録されている。

この噴火は、現在の富士五湖の一つである精進湖と西湖が形成されるきっかけとなったと考えられています。また、この噴火によって噴出した溶岩は、現在も「青木ヶ原樹海」として残っており、その一部を見ることができます。

もう一つの関連エピソード:富士山の神格化

日本三代実録には、富士山の噴火に関する直接的な記述は上記のものに限られますが、富士山が当時の人々にとって特別な存在であったことを示す間接的な記述が見られます。それは、富士山が神として祀られるようになった経緯に関するものです。

貞観15年(873年)の記事には、富士山を神として祀るための祭祀が始まったことが記されています。

「是歳、富士山の神を祀る。其神威赫然、国泰民安を祈る。」

この記述は、富士山が噴火という脅威をもたらす存在であると同時に、畏怖の念を抱かせる神聖な存在として捉えられていたことを示しています。噴火を鎮めるため、また、国家の安泰を祈るために、富士山は神として祀られるようになったと考えられます。このことが、後の富士山信仰へとつながっていったのでしょう。

古代の人々が抱いた富士山への畏怖

日本三代実録の記述からは、古代の人々が富士山に対して抱いていた畏怖の念が伝わってきます。噴火という自然現象は、当時の人々にとって理解を超えたものであり、神の怒りや災いとして捉えられていました。

富士山は、その美しい姿から信仰の対象としても崇められていましたが、同時に噴火という脅威をもたらす存在でもありました。この二面性が、富士山を特別な存在として捉え、畏怖の念を抱く要因となったのでしょう。

現代の視点から

現代の私たちは、火山噴火のメカニズムを科学的に理解していますが、日本三代実録の記述は、当時の人々の視点から富士山の姿を捉える上で非常に貴重な資料です。

また、富士山が活火山であることを改めて認識させられると同時に、自然災害に対する備えの重要性を教えてくれます。

まとめ

日本三代実録に記された富士山の噴火に関する記述は、古代の富士山の姿を現代に伝える貴重な手がかりです。噴火の様子や人々の反応を通じて、当時の富士山に対する畏怖や信仰を感じることができます。

また、富士山が神として祀られるようになった経緯も、当時の人々の富士山に対する特別な感情を表しています。この記事を通して、皆様が日本三代実録や富士山に興味を持ち、歴史と自然に対する理解を深めるきっかけとなれば幸いです

ABOUT ME
富士山ガイド竹沢
静岡県裾野市在住。 富士山に暮らす富士山ガイド 富士山エコネット認定 エコツアーガイド 日本山岳ガイド協会認定 登山ガイドステージⅡ