こんにちは!前回に引き続き、登山と健康に関する論文を解説する記事をお届けします。
今回は、**「グループ登山を行う高齢者の健康および体力の実態」**という論文を参考に、グループ登山が高齢者の健康や体力に与える影響について、深掘りしていきます。
研究の背景と目的:なぜ高齢者のグループ登山に注目したのか?
この論文は、活水女子大学の研究グループによって発表されたものです。まず、研究の背景として、高齢者の登山人口が増加している一方で、高齢者の山岳遭難事故も多発しているという現状があげられています。
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高齢者の遭難事故の原因の一つとして、体力低下が挙げられます。
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体力低下は、登山中に重篤な有害事象につながる可能性もあります。
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グループ登山では、メンバーの体力レベルや健康状態が多様であることが課題です。
このような背景から、本研究は、グループで登山を行う高齢者の健康状態や体力の現状を把握し、安全な登山を行うための情報提供を目的としています。
研究の方法:どんな人々がどのように調べられたのか?
この研究には、長崎県内の6つの登山グループに所属する60歳以上の男女63名(男性33名、女性30名)が参加しました。
研究では、参加者に対して、以下の調査と測定が行われました。
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健康に関するアンケート: 病歴、服薬状況、健康状態についての質問。
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登山に関するアンケート: 登山経験年数、年間登山日数、登山中のトラブル、トレーニング状況などの質問。
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血液検査: 血圧、血糖値、コレステロールなどの値を測定。
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体力測定: 握力、長座体前屈、30秒椅子立ち上がり、開眼片足立ち、6分間歩行などの測定。
これらのデータをもとに、高齢者のグループ登山の現状を分析しています。
研究の結果:体力と健康状態の実態は?
研究の結果、以下のことが明らかになりました。
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生活習慣病の有病率:
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高血圧症や糖尿病は、同年代の一般の人よりも有意に低い傾向。
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ただし、既往歴として高血圧や脂質異常症を回答していない人がいることから、定期的な健康診断の必要性も指摘されています。
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体力測定:
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脚伸展筋力(大腿四頭筋の力)は比較的低い傾向
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30秒椅子立ち上がりは比較的高い
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動的バランスを測るタンデムインデックスの評価は低い
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開眼片足立ちは、評価が良い人と悪い人に二極化
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6分間歩行距離は男性の方が有意に高い
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グループ内の男女差と個人差:
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体力測定項目においては、男女差は少ないが、個人差が大きい
これらの結果から、高齢者のグループ登山には、以下のような特徴があることが分かりました。
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体力的に優れた人もいれば、そうでない人もいる
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バランス能力は一般的に低い
論文のポイント:研究から得られた教訓と提言
今回の論文で特に重要なポイントは、以下の2点です。
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個人の健康状態と体力レベルを把握することの重要性:
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グループ登山では、個人の体力レベルが様々であり、それに合わせた登山ルートやペースを選ぶ必要がありまる。
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登山前後の定期的な健康診断の推奨:
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生活習慣病は同世代に比べると有病率は低いですが、治療を受けていない人がいることもわかりました。山でのトラブルを未然に防ぐため、定期的な健診は欠かせません。
論文では、安全に登山を行うために、リーダーが参加者の健康状態や体力レベルを把握し、情報共有し、適切にグループをコントロールすることが重要であると結論づけています。
まとめ:論文から学ぶ、高齢者の登山における安全対策
今回の論文解説を通して、高齢者のグループ登山における、健康と体力の重要性を再確認しました。
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グループ登山参加者の健康、体力面は同年代の一般人と比較して必ずしも優れているとは言えず、個人の間で大きな差がある。
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登山前の定期的な健康診断の重要性
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体力や経験に基づいた適切な登山計画が必須
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グループ内での情報共有と、リーダーの適切な判断が重要
これらの情報を共有し、グループ全体で安全な登山を心がけましょう。
今回の記事が、皆さまの登山活動の一助となれば幸いです。
【引用元論文】
福田理香,阿南祐也,本田元人:グループ登山を行う高齢者の健康および体力の実態. 活水論文集
https://kwassui.repo.nii.ac.jp/record/374/files/K656%20Fukuda_Anan_Honda.pdf